2012年6月29日金曜日

代表作(人気作)はなんじゃろ。古井由吉らんきんぐ


 『文藝』の2012年夏号に〈偏愛的「古井由吉他薦作品」〉というコーナーがあった。14人の作家が3タイトルづつ挙げていている(石田千だけ何故か1つ)。
古井由吉は、作風も二度くらい変わるし、それぞれ安心のクオリティーで、なにが代表作とも云い難い作者。それでもどれが人気あるんだろう、と思って勝手に集計してみた。ただそれだけの、ほとんど読書会の課題本選定と自分用メモ。



得票の少ない順から。


1票  『瓦礫の陰に』 『白暗淵』 『木犀の日』 『愛の完成、静かなヴェロニカの誘惑』(翻訳) 『やすら いの 花』 『野川』 『夜明けの家』 『神秘の人びと』 『詩への小路』 『グリムの幻想 女たちの15の伝説』 『人生の色気』 『楽天記』 『白髪の唄』  『眉雨』 『杳子』 『聖』 『やすらい花』
2票  『蜩の声』 『野川』
3票  『山躁賦』 『辻』 『仮往生伝試文』
4票  『槿』

見てわかるように、一票の作品がほとんど。見事にバラけている。やはり古井由吉には代表作なし、というか、どれもが代表作と考えるべきか。

一応、4票の『槿』が最多得票

実は、チョイス自体も心理ゲームのようだ。選者の一人、平野啓一郎は〈「偏愛的」とあるので、『山躁賦』や『野川』など、真っ先に名前の挙がりそ うな代表作を避け〉と書いている。つまり名前の挙がらなそうな作品を腹をさぐりあった結果が見事、こうなったようだ。普通なら、『杳子』、『聖』、『白髪 の唄』あたりも、もっと票を伸ばしそう。『槿』が一位というのも意外。
しかし松浦寿輝はそんな探りあいの中でも、偶然、上位になった作品ばかりを挙げる。『槿』『山躁賦』『仮往生伝試文』。これもすごい。
写真。うちの『槿』は、福武文庫のだった。

庄司薫4部作の新潮文庫化について


東京中日新聞2012年5月24日夕刊に、「〈好きな女の子とは、しない〉ための戦い」という庄司薫論を記載していただきました。イントロはこんな感じ。
 かわいい女の子たちからモテモテ、頭も良くて、有名ブランド高校にいて、頼れる友達もいて、しかも健康で深刻な悩みもなく、家はお金持ち。こんな奴は、今時の言葉でいう「リア充」である。
元記事自体が、原稿用紙4枚くらいなので、要約できず、申し訳ない。リア充の「薫くん」が今読まれる意味について考察したものです。もしご興味のある方は、図書館で読んでいただけたら嬉しいな、と思います。
さて、新聞記事に書ききれなかった(しかし一応自分用メモとしてまとめた)補記のようなもの。

新潮文庫について
今年の3月からはじまった新潮文庫リニューアル発行によって、庄司薫のプチブーム(?)がはじまった。その流れの中に、上記の庄司薫の今日的意味を問いなおす記事もある。だからリニューアル新潮文庫化の特徴について語ってみよう。
もちろん誰でも手に入る簡単な情報を、再整理するだけ(一切内容には触れず、書誌ぽく?)


「薫くん」シリーズ=赤白黒青四部作の新潮文庫書影。赤緑黒青ではない…(先行する赤白の二冊だと『ノルウェイの森』上下巻と同じクリスマスカラーになる計算?・・・とりあえず書店で二冊並べば目立つ)。
中公文庫は著者自身が装丁している。一方新潮文庫のデザイナーは、長崎訓子氏。前者は味わいとファンごころをくすぐるが、後者は、やはり餅は餅屋というべきか。それぞれのシンボルカラーを強調したスタイリッシュなデザイン。


中公文庫vs新潮文庫 購入価格
赤黒白青四部作の総購入価格だと、中公文庫は2,900円、新潮文庫は2,154円。差額746円! なんと新潮でそろえると、中公と比べて、文庫約一冊分お得についてしまうコストパフォーマンスぶり。中公は、まだ潤沢に在庫があるようだし、不良在庫にならないのか、心配になる。余計なお世話? うん。

さらに解説者年齢比較
(『白』は、なぜか中公→新潮でも、解説の女性枠の伝統が引き継がれている)。平均36歳も若返っている。 簡単にいえば、中公は、山崎正和氏以外は、1937年生まれの庄司薫(福田章二)より一世代以上、年上が書いていた。一方、新潮の解説は、1950年生ま れの「薫くん」より少し年下(つまり最も多いリアルタイム読者層…完結時くらいに「薫くん」の年齢に追いつく世代)が書くようになった。
ただしそれぞれの文庫刊行時の平均年齢で考えると 50代前半のほぼ同じ年令の人が書いている(赤白黒は1973年、青は1980年に中公文庫化)。解説者適齢期というのはあるのかもしれない。生まれ月や発行月は無視した、ざっくりした計算だが、こんな感じである。
このように一新された表紙に、若返った解説陣、お求めやすい価格と三拍子そろった。更に加えて、文庫2ページほどだが、著者・庄司薫自身による新 たな後書き「あわや」が追加されている。さて、どのくらい売れているのか。すごく売れたら、その「今売れてる!」という情報が宣伝になるので大本営発表さ れるのだけども。
追記)一つだけ、著者装丁以外に中公文庫を選ぶメリットをあげると、やはり高い分だけ、紙や作りがいいような気がする。新潮文庫はすぐにくたびれてしまうが、中公文庫は湿気に強く、大切に読めば長持ちするような気がする。あくまで気がするだけの個人的感想だよ。

女の子を殺さないために・紙媒体紹介状況

tumblrからの移行に伴い、弊著「女の子を殺さないために」について、紙媒体でご紹介いただいた状況を整理しなおします。

2012年3月25日発行 読売新聞
尾崎真理子氏による評。ありがとうございます。

 読売オンラインで全文が読めるので、こちらへ


2012年4月22日発行 東京中日新聞 「この本この人」
久間木記者によるインタビュー+書評記事。ありがとうございます。




「女の子を殺さないため」の小説の仕掛けなどを、資料を博捜しながら検討していく。キーワードは「歩行」と「幼なじみ」。もう一つ付け加えるなら「下降」だろうか。(書評部分より)


2012年5月29日発行 サンデー毎日(6/10増大号) 著者インタビュー (p114)
北條一浩氏によるインタビュー+書評記事。ありがとうございます。




本書の面白さは謎ときよりもむしろ、「物語とは何か?」にあらためて迫っている点にあるだろう。(書評部分より)