『文藝』の2012年夏号に〈偏愛的「古井由吉他薦作品」〉というコーナーがあった。14人の作家が3タイトルづつ挙げていている(石田千だけ何故か1つ)。
古井由吉は、作風も二度くらい変わるし、それぞれ安心のクオリティーで、なにが代表作とも云い難い作者。それでもどれが人気あるんだろう、と思って勝手に集計してみた。ただそれだけの、ほとんど読書会の課題本選定と自分用メモ。
得票の少ない順から。
1票 『瓦礫の陰に』 『白暗淵』 『木犀の日』 『愛の完成、静かなヴェロニカの誘惑』(翻訳) 『やすら いの 花』 『野川』 『夜明けの家』 『神秘の人びと』 『詩への小路』 『グリムの幻想 女たちの15の伝説』 『人生の色気』 『楽天記』 『白髪の唄』 『眉雨』 『杳子』 『聖』 『やすらい花』
2票 『蜩の声』 『野川』
3票 『山躁賦』 『辻』 『仮往生伝試文』
4票 『槿』
見てわかるように、一票の作品がほとんど。見事にバラけている。やはり古井由吉には代表作なし、というか、どれもが代表作と考えるべきか。
一応、4票の『槿』が最多得票。
実は、チョイス自体も心理ゲームのようだ。選者の一人、平野啓一郎は〈「偏愛的」とあるので、『山躁賦』や『野川』など、真っ先に名前の挙がりそ うな代表作を避け〉と書いている。つまり名前の挙がらなそうな作品を腹をさぐりあった結果が見事、こうなったようだ。普通なら、『杳子』、『聖』、『白髪 の唄』あたりも、もっと票を伸ばしそう。『槿』が一位というのも意外。
しかし松浦寿輝はそんな探りあいの中でも、偶然、上位になった作品ばかりを挙げる。『槿』『山躁賦』『仮往生伝試文』。これもすごい。
写真。うちの『槿』は、福武文庫のだった。